歴史:映画と観客

観客が参加するとは?

"観客参加"とは聞きなれない言葉である。それもそのはず、これはロッキーホラーの上映とともに発生した、まったく新しい映画鑑賞のスタイルだ。

一般に映画館では作品を静かに鑑賞するのが常識である。他の客の迷惑にならないように、セキやクシャミ、はては笑い声まで控えめにするのが当たり前になっている。この常識を信じてロッキーホラーショーを観に来ると、かなり面食らうに違いない。

上映の"濃さ"にもよるが、だいたいがそこには

1. 映画のキャラクターの扮装をした男女
2. 上映中にスクリーンに向かって叫ぶ男女
3. 頭に新聞紙を乗せたり、なにやらアクションに忙しい男女
4. スクリーンのまん前で、キャラクターの動きをトレースする男女(たいがい1.を兼ねる)

が集まっていて、とうてい静かに映画に浸れる雰囲気ではない。

これらは、ロッキー用語で

1. 仮装
2. ツッコミ
3. 小道具
4. パフォーマンス

などとも呼ばれる。

また、映画の始まる前に短いショータイム(プレショー)や客いじり(バージン・サクリファイス)があることもある。

断言していいが、初めてロッキーホラーを観る人は映画の内容がまともに頭に入らないだろう。代わりに、とうてい上映とは思えないムチャクチャな体験をしたことが印象に刻まれるはずである。

歴史をひもとくと、ロッキーホラーの上映が最初からこうだったわけではない。観客のアクションを期待して初めからそう作られたと誤解されることがあるが、それはまったく事実に反する。

1976年4月にニューヨークでミッドナイトショーが始まったとき、集まったのは本当のロッキー馬鹿の集団だった。毎週やってきては同じ映画を観続ける彼らは、すぐにセリフや歌詞を丸覚えし、画面に映ってるモノまで記憶に刻み込んでしまった。ある日、ジャネットが傘の代わりに新聞紙をかぶるシーンで、1人のロッキー馬鹿が思わず叫んだ。

「Buy an umbrella, cheap bitch!」
  カサ買ってこいよ、貧乏女!

"ツッコミ"が誕生した瞬間であった。

その年のハロウィンに数人のファンがキャラクターの仮装でやってきたのは、ある意味自然な流れだった。すでに、トーストを持ってきて投げたり水鉄砲で雨を降らしたりと、小道具遊びも定着していた。あとは、上映中にキャストと同じ衣装で各シーンをコピーして演じる"パフォーマンス"の始まりを待つばかりであった。

1年後に上映館が同じNYの8th Playhouseに変わり、ここでのロングランで観客参加のスタイルが完全に定着する。さらに、プレイハウスの常連ファンが全米各地の上映に遠征してツッコミを入れることで、同じスタイルが州境を超えて広がっていくことになる。ただし、この遠征は、後に各地のファンが我が州こそがツッコミの元祖・本家だとして争う原因ともなった。

実際、観客参加が最初にどこで始まったのか、断言することは難しい。ハロウィンに観客がロッキーホラーの仮装をすることは、映画公開より前にロンドンの舞台公演でも観られた現象であり、証拠の写真もある。だが、セリフにつっこみとか、小道具を持参するといったスタイルはミッドナイトショーに始まると考えられている。

日本上陸

"観客参加"スタイルが日本に正式に伝わったのは、1988年にシネマライズ渋谷で始まったリバイバル上映である。バブル期らしい大々的なプロモーションが展開され、情報誌では「パフォーマンスを演じるファングループ」が募集された。ファンを"指導する"ためにアメリカのファンクラブから会長サル・ピロ以下、3人のベテラン・ファンが招聘され、彼らは映画スター並みの待遇を受けたのである。

リバイバル上映は連日の超満員、観客のどよめきや爆笑が耐えない大ヒットとなり、当初の予定をはるかに超えて3ヶ月のロングランを記録した。観客参加が日本に定着したのである。

このときに集まったファンによってファンクラブLIPS SOCIETYが結成される(現在のLIP'Sの前身)。日本のロッキーホラーの黄金時代である。

ただし、リバイバル以前にも熱狂的なロッキーファンは少なくなかった。クラッカーを鳴らす日本独特のアクションもすでにあり、上映の機会さえあれば、80年代の早い時期に独自の観客参加スタイルが発展していた可能性がある。ファン組織も存在していたが、リバイバル上映の商業的な展開に背を向けてしまったファンも多く、残念なことにファンの世代には1988年を境とする大きな断絶がある。

日本の上映には、長年"バージン・サクリファイス"が欠けていた。ロッキーホラーを劇場で観たことのない初心者に辱めを与える上映前のイニシエーションであることから、日本の"シャイ"な観客は引いてしまうと考えられていたからだ。しかし、21世紀になってからカワサキ・ハロウィン上映で初めて実行に移したところ、実は一番盛り上がる企画だと判明し、現在はすっかり名物企画として定着している。

以上の説明で"観客参加"を理解できたと思ったら、それは大間違いだ。

Be in the theatre, Do it!

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